2012年御翼10月号その3

日本「再創造」―小宮山 宏

 

 原発の問題が起こると、私たちクリスチャンも原発は即刻停止し、すぐに神の創られた再生可能な自然エネルギーに頼るべきだ、と主張しがちである。現在、日本の発電量の約3分の1を原子力発電が占めており、フランスでは80%の電気を原子力に依存している。今、原子力をすべてやめて他のものに代替えするとなれば、大量の石油や石炭を使って火力発電をするしかないが、それでは温暖化を促進することになる。そこで、地球温暖化問題の第一人者である前東京大学の総長・小宮山宏博士は、「原子力発電は22世紀に至るまでの間のエネルギーを賄(まかな)う、過渡期的なエネルギーととらえるべきだ。22世紀以降は、太陽エネルギーを中心とする世界が実現するだろう。しかし、新しいエネルギーシステムを大規模に導入するには、時間とコストがかかる。21世紀はそこに至るまでの過渡期であると位置付け、原子力をめぐる議論を建設的なものにする必要がある」と言う。
 そして、資源が不足し、技術力の高い日本こそ、新しいエネルギーシステムを導入する先進国となり得るという。その具体的な機器が、「エコキュート」(空気の熱を取り込んでお湯を沸かす電気給湯器)と「エネファーム」(家庭用の燃料電池)である。どちらも、日本だけが量産体制に入っており、エコキュートとエネファームは、20世紀初頭の「T型フォード」に匹敵する製品だと小宮山氏は言う。T型フォードは、それまでには存在しなかった自動車市場なるものを創造した。大量生産方式によりコストを下げ、一部の金持ちしか持てなかった自動車を庶民のものとした。日本はエコキュートとエネファームを買いやすいように国が支援し、その市場自体を創造していく必要があるのだ。
 また、国土の70%を森林が占める日本で、林業が成り立たないはずがないと、2050年までには、木材資源の自給率を100%にすることを氏は提案している。これは、小宮山氏が主張する環境、エネルギー、物質に関する「ビジョン2050」であり、鉱物資源と食糧の自給率を70%とする「資源自給国家」を提案している。
 日本は、環境問題、資源の不足、そして高齢化が課題となっている「課題先進国」だが、氏はそこにとどまるのではなく、「課題解決先進国」として雄飛する力が日本にはあると確信している。高齢化は長寿の結果であるから、それは喜ぶべきことであって、安心して長寿を謳歌できる社会を作りたいと氏は願っている。現在、幸せな加齢のための条件が科学的に明らかにされつつあり、それは生命科学や認知科学などにより、物質、科学レベルで加齢と健康のメカニズムが解明されつつある。そうした研究によると、1)栄養、2)運動、3)人との交流、4)新しい概念の受容性、5)前向きな思考、これらの5つの条件が満たされれば健康に加齢することができる。いわば「幸せな加齢の五条件」なのだと小宮山氏は言う。(以上、小宮山宏『日本「再創造」』より)
 小宮山氏はクリスチャンではなさそうである。しかし、地球温暖化問題の第一人者である氏は、意識していようがいまいが、神のわざを行っている。そのような人を敬い、積極的に助けることは、クリスチャンの義務なのだ。
 小宮山氏が提唱する「幸せな加齢の五条件」のうち3つ(人との交流、新しい概念の受容性、前向きな思考)は、信仰と教会生活によって満たされる。日本が「課題解決先進国」となるには、キリストへの信仰が有益なのだ。世界を無秩序から救うことを願った日本人クリスチャン、新渡戸稲造の最期は以下のようなものであった。

平和の使徒の最後

 新渡戸稲造(1862〜1933)は平和を愛するフレンド派の敬虔なクリスチャンであった。晩年の1920〜26年国際連盟事務局次長をして平和友好、国際相互理解の促進に貢献した。1933年(昭和8)カナダで開かれた太平洋会議に出席し病気で客死した。
 重態になり絶望視された時、看護していた人々の計らいで祈りのために日本人の牧師が招かれた。牧師は枕べにやってきて「先生、ご健康のために祈りましょうか、それとも天上の祝福について祈りましょうか」と尋ねると、彼は「いや世界の平和のために祈ってください」と答えた。牧師の祈りを大変喜び、その最中に幾度もうなずき祈り心を共にした。
 二、三日たって彼は再び牧師を招き、もう一度平和のために祈ってくれるように頼んだ。最後まで世界平和を念じ祈っていたのである。 〈『キリスト教逸話例話集』(神戸キリスト教書店)より〉

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